朝起きて、ちょっと横になってたら時間がギリギリになりすぎて、タクシーを飛ばす羽目に。最後の患者になれるかと思っていたら、遅れてきた人がいて、しばらく来られていなかったみたいで、最後から2番目の患者になった。いつもより混んでいたのか、いつもより時間のかかる人が多かったのか、自分の番が回ってきたときには2時半を回っていた・・・何となく雑誌を読んだりして待つことができてたんだけど、時間と共に、それができなくなってきて頭の中で「生きてる実感がない」とか「生きていく自信がない」とかっていう、昨日手紙を書いているときぐらいから浮かんでくる言葉がぐるぐるし始めて、とても辛い気分になってきた。待合で座っていても泣いてしまいそうな自分と、過ぎていく時間の遅さに耐えがたくなってきた頃にようやく呼ばれて診察室に。


入るといつもと同じように先生が座っておられて「今日はどうですか?」といつもと同じように尋ねられる。反射的に「生きている実感がありません」と答えていた。「うまく説明できないですけど、プログラミングされたロボットになったような感じがします」と言いながら手紙を渡して読んでいただいた。先生は、私の言葉に少し怪訝な顔をされていたようだったけど、手紙を読んで尚険しい顔をしておられるように思えた。
この頃は、手紙を読んでいただいている間にも気持ちが辛くなってきて、涙を流してしまう事が多い。先生が手紙を読み終えて、口を開くまではずっと黙っているのだけど涙が流れてくる。以前はもっと気持ちが乱れていても、先生から何かを言われるまでは泣いた事がなかったのに。


先生は難しい顔をされたまま「まだ気持ちのほうはしんどい状態ですね」と静かに話される。「それでも、ご主人とのことはあまり罪悪感を持たなくていいんですよ」と。「ご主人も、息子さんも『健康体』だからね。理解しようとしてくれてはいると思うし、そのうちに理解してもらえるようになると思うけど、どうしても病気である事の辛さとかは分からない部分があるし、温度差もできてしまう」「今まで、仕事に没頭して避けてきた問題と直面していて、逃げるところがないわけだから、とてもしんどいときだと思います。それでも少しずつでも問題は解決してきているし、これから楽になっていくんですよ」と私がしていることを肯定し、なおかつ前進できている事を告げてくれる。
それでも「いろんな問題が少しずつ解決されていって、全ての問題が解決された後に低迷期がやってきて、それが本当の苦しい『底』の部分になって、そこから上向きになっていくもんだと思うから、これからますますしんどい事が待っていると思わなければならないかもしれない。こんなことを言うとがっかりさせてしまうかもしれませんけどね」と笑顔で私を奈落の底に突き落とすような事もおっしゃる。それもこれも「信頼」があるからだと思うんだけどね。私は先生についていくしかないし、「底」があるとおっしゃるからにはそこまで面倒見てくださる覚悟をお持ちだと思うので。先生にしたら、少しずつではあるけれど「辛い部分」についても話していく時期だと考えておられるのだと思う。そうでなかったら、私は先生の元を離れて路頭に迷ってしまうに違いないから。


血圧を測りながら「ご主人が熟睡したあとから布団に入るほうが寝やすい?」と尋ねられてうなずくと「女性にはそういう場合が案外多いんです。だから用事を最後まで残しておいて、例えば洗い物を最後にして、みんなが寝静まってから寝る、とかそういうことをする人は多いですよ。だから気にしなくても大丈夫。」といわれ「でも『寝るけどどうする?』とか『早く来てね』とか言われるのがつらいんです」と答えると笑いながら「寝る時間は体調の変化に合わせなさいといわれているから、といって無理にご主人と同じ時間に布団に入る必要はありません。本当はそこまで言いたいところだけど、私がそこまで言ってしまうと、やっぱりご主人を傷つけてしまうからね」といってくださった。「女性はそういうことを拒否すると相手を傷つけると思ってしまう人が多いけれど、心配しなくても大丈夫」とも言ってくださって、ちょっと肩の荷が下りた気分。でも涙は次から次へとあふれてくるし、先生はそんな私をしばらく黙ってみておられて、カルテをめくりながら以前の処方を確認し、私のほうを向くと「メイラックスを少し増やさせてくださいね。今までは1mgという処方だったけど、2mgに増やします。しばらく眠気が強くなるかもしれないけれど、気分の安定をはかることのほうが先決だからね」とおっしゃって、少し薬が増えた。